大正蜜恋政略結婚【元号旦那様シリーズ大正編】
私が声のするほうに向かうと「いたいた」と笑顔で迎えられて、なぜか涙がこぼれそうになる。


敏正さんも一橋さんも、そして春江さんも、今朝までなんの縁もなかった私を少しも嫌がる様子もなく受け入れてくれることに胸がいっぱいになったのだ。

実父には捨てられたも同然なのに。


「どうされました?」

「いえ。親切にしていただけてありがたくて」

「なにをおっしゃいますか。敏正さまのお客さまなのですから当然ですよ。昨晩、眠っていらっしゃらないとか。二階の日当たりのいい部屋に布団を敷きましたから、たっぷりお休みください。こちらです」


敏正さまのお客さま、なのだろうか。
ただのお荷物としか思えないけれど。

私は複雑な思いを胸に、春江さんに続いて二階への階段を上がる。


「そのお着物ではシワになってしまいます。私はここに住み込みではないのでお貸しできず、敏正さまがこちらをと」


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