大正蜜恋政略結婚【元号旦那様シリーズ大正編】
八畳の間に通されたあと、春江さんが浴衣を差し出してくる。

藍色の縦縞模様の浴衣は、どう見ても男性用だ。
敏正さんの?


「こちらにしばらく滞在なさるとか。すぐにお召し物を用意するとお聞きしておりますので、今日のところは敏正さまのもので我慢なさってください」

「我慢だなんて!」


それに、しばらく滞在すると敏正さんが言ったの?


「ここでは遠慮はいりませんよ。大変でしたよね。ご生家で折檻されていたとか」


折檻? 敏正さんは春江さんにそんなふうに話したの? 

私がここにいる理由を探られないようにしてくれたんだ。


「敏正さんがいらっしゃれば鬼に金棒です。もうなにも心配なさらず、ごゆるりとお過ごしください。それでは」


春江さんはまくし立てるように話し、すぐに部屋を出ていった。


敏正さんの、『救う価値のある人間』という言葉には目頭が熱くなった。

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