大正蜜恋政略結婚【元号旦那様シリーズ大正編】
それに加えて、取引先の男から丸の内にビルヂングを建てて会社を大きくすべきだと耳打ちされてその気になった父が、銀行に借金をしてまでビルヂングの建設に乗り出していたのだから、ひとたまりもない。
――行きたくない。吉原になんて、行きたくない!
吉原への身売りが決定した私が心の中で叫んだとて、当然誰にも届かない。
けれど、まだ中学校に通う妹の泰子(やすこ)と、小学生の弟の貫一(かんいち)の前で、みっともなく取り乱せなかった。
それに子爵令嬢として育ってきた自尊心が、のどから出かかった言葉を呑み込ませた。
黙っていると、嫌らしい笑みを浮かべる女衒が「大した上玉だ」と値踏みしながら手を伸ばしてくる。
「嫌っ!」
ガバッと勢いよく起き上がると、西の空が茜色に染まっている。
「夢? ここは……」
――行きたくない。吉原になんて、行きたくない!
吉原への身売りが決定した私が心の中で叫んだとて、当然誰にも届かない。
けれど、まだ中学校に通う妹の泰子(やすこ)と、小学生の弟の貫一(かんいち)の前で、みっともなく取り乱せなかった。
それに子爵令嬢として育ってきた自尊心が、のどから出かかった言葉を呑み込ませた。
黙っていると、嫌らしい笑みを浮かべる女衒が「大した上玉だ」と値踏みしながら手を伸ばしてくる。
「嫌っ!」
ガバッと勢いよく起き上がると、西の空が茜色に染まっている。
「夢? ここは……」