大正蜜恋政略結婚【元号旦那様シリーズ大正編】
三谷の家ではないのに驚いて辺りを見回し、敏正さんに助けられたことを思い出した。


「郁子、どうした?」


障子の向こうから敏正さんの声がする。
私は乱れた浴衣を直してから、「なんでもありません」と答えて正座した。


「入るよ」
「はい」


スーッと静かに障子が開き、浴衣姿の敏正さんが姿を現す。

先ほどの背広姿とは雰囲気がまるで違うけれど、どちらも様になっている。


「疲れていたようだね。春江が昼飯のときに声をかけに来たそうだが、物音ひとつしないからそのままにしておいたと」

「申し訳ありません」


謝罪の言葉を口にすると、彼は私の正面にあぐらをかいてふと笑みを漏らす。


「謝る必要はない。寝ろと言ったのは俺だしね。やはり、少し大きすぎたか。子供のようだ」


敏正さんの浴衣を着た私を笑っているらしい。
私は襟を手繰り寄せて整え直した。


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