大正蜜恋政略結婚【元号旦那様シリーズ大正編】
「子供のようですが……この浴衣に包まれていたせいか、なぜかとても安心できてぐっすり眠れました」


正直に告白すれば、彼は目を瞠る。


「そ、そうか。それはよかった。少し顔色がよくなったね。腹は減らないか? 春江に――」

「お父上にお叱りを受けられたのでしょうか」


私は呑気な彼の言葉を遮って尋ねる。


「気にしているのか。そりゃあまぁ、『お前はまだ五千もの金を右から左にできる立場ではない!』と雷は落ちた」

「す、すみません」


社長と面識はないけれど、その怒りの大きさは想像するに難くない。

偶然すれ違っただけの敏正さんに、そのような役回りをさせてしまったのが申し訳なくて、顔が引きつった。


「難しい顔だね」
「私、敏正さんにとんでもない――」


それ以上言えなかったのは、彼の人差し指が私の唇をふさいだからだ。

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