大正蜜恋政略結婚【元号旦那様シリーズ大正編】
私の唇より幾分か低い体温の指に触れられて、鼓動が勢いを増していく。


「心配いらない。『よくやった』とさ」
「は?」


発言の意味がわからず、場違いな声が漏れる。


「あははは。今の顔、なかなかいい。郁子はここにシワを刻まないほうが美しい」


私の額を軽く二度叩いた彼は、なぜか楽しそうだ。


「う、美しいなんて。それより、よくやったというのは……」

「父は、もし郁子の遊郭入りをただ指をくわえて見ているだけだったら、勘当していたと話していたよ」

「か、勘当?」


どうしてそうなるの?


「父は他人に受けた恩は、恩で返せというのが口癖なんだ。副社長の奥さんの章子(あきこ)さんは、実は副社長との結婚前に好きでもない男に嫁がされた経験があって、暴力を振るわれていたんだが」

「暴力? ひどい!」


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