私が聖女?いいえ、悪役令嬢です!~生存ルート目指したらなぜか聖女になってしまいそうな件~
イリスは枕を投げつけた。ボフンと音を立てて窓にぶつかる。窓がガタンと揺れた。
しかしここで父に憤りをぶつけても仕方がないのである。
「イリスー?」
窓の外から呼び声が響いた。今の枕投げを見られたらしい。
イリスは慌てて窓を開け、階下を覗き込んだ。冬の終わりのまだ肌寒い風がカーテンを揺らし、こんなに薄暗い心でも、太陽は明るく差し込んでくる。
そこに弟が見えた。弟のニジェルはイリスに気が付いて手を振った。
イリスは顔を引きつらせながら、一応手を振り返す。
「どうしたの? 変な音がしたけど」
「何でもないわ」
「そう? 今からそっちに行くね」
ニジェルはそう言うと駆け出した。
イリスとニジェルは双子である。しかし、ニジェルの髪と瞳は、イリスよりさらに濃い緑をしている。冬の色の少ない庭に美しい色が映える。
父と同じ勇者の緑なのだと家族は言う。希望をもたらす常葉の緑だと。
でも、ちょっと待って。あの子は絶対。
イリスは茫然としているうちに、ドアがノックされた。
「イリス? もう体調はいいの?」
鈴の転がるような声と共にドアが開けられた。声だけで分かる。イリスは固まる体に鞭打って、グギギギギとその声の主に向けた。
そこには攻略対象の一人であり、イリスの双子の弟ニジェル・ド・シュバリィーがいた。
『愛の鎖』ルートのニジェルだ。
キラキラと光るエメラルドグリーンの髪は優雅に波打っていて、縦ロールのイリスとは違った柔らかさを見せていた。大きな瞳は翡翠のように輝いて、今にも零れ落ちそうだ。
今は可愛らしい風貌ではあるが、父シュバリィー侯爵と一緒に王宮に上がり、王子たちの武術の練習相手を務めている。その為か、王子たちとは近しく、騎士としての将来は約束されたようなものだった。
それなのに、この子は将来、ヒロインに入れ墨を施した挙句、自分と鎖でつないで歩くんだもん。こっわー。
しかしここで父に憤りをぶつけても仕方がないのである。
「イリスー?」
窓の外から呼び声が響いた。今の枕投げを見られたらしい。
イリスは慌てて窓を開け、階下を覗き込んだ。冬の終わりのまだ肌寒い風がカーテンを揺らし、こんなに薄暗い心でも、太陽は明るく差し込んでくる。
そこに弟が見えた。弟のニジェルはイリスに気が付いて手を振った。
イリスは顔を引きつらせながら、一応手を振り返す。
「どうしたの? 変な音がしたけど」
「何でもないわ」
「そう? 今からそっちに行くね」
ニジェルはそう言うと駆け出した。
イリスとニジェルは双子である。しかし、ニジェルの髪と瞳は、イリスよりさらに濃い緑をしている。冬の色の少ない庭に美しい色が映える。
父と同じ勇者の緑なのだと家族は言う。希望をもたらす常葉の緑だと。
でも、ちょっと待って。あの子は絶対。
イリスは茫然としているうちに、ドアがノックされた。
「イリス? もう体調はいいの?」
鈴の転がるような声と共にドアが開けられた。声だけで分かる。イリスは固まる体に鞭打って、グギギギギとその声の主に向けた。
そこには攻略対象の一人であり、イリスの双子の弟ニジェル・ド・シュバリィーがいた。
『愛の鎖』ルートのニジェルだ。
キラキラと光るエメラルドグリーンの髪は優雅に波打っていて、縦ロールのイリスとは違った柔らかさを見せていた。大きな瞳は翡翠のように輝いて、今にも零れ落ちそうだ。
今は可愛らしい風貌ではあるが、父シュバリィー侯爵と一緒に王宮に上がり、王子たちの武術の練習相手を務めている。その為か、王子たちとは近しく、騎士としての将来は約束されたようなものだった。
それなのに、この子は将来、ヒロインに入れ墨を施した挙句、自分と鎖でつないで歩くんだもん。こっわー。