五年越しの、君にキス。


もしかして、気付かれただろうか。慌てて完全に列から抜けると、彼女は興味なさそうに私から視線をそらした。

どうやらただ迷惑に思われただけで、気付かれたわけではないらしい。


「会場に入ったときから、伊祥さんがずっとそばに連れていらしたみたいなんだけど、ほとんどどなたにも挨拶させずに背中に隠してたそうよ。ちらっとお顔が見えた人が、とてもお綺麗な方だったとは言ってたけど」

「あら。背中に隠されてたってことは、四ノ宮グループとのお見合いを断った手前、その方を人前に出すことを遠慮されてるのかしら」

彼女たちの言葉が、グサリと私の胸に突き刺さる。

パーティー会場で、伊祥が特定の方以外の挨拶を無視したのは、そういう事情があったのか……

伊祥はそれを私に気付かせないようにしていたんだ。

彼女たちの会話はまだ続いていたけれど、真実を知ってしまった私の足元はグラグラで。それ以上そこに立っているのが難しかった。

< 100 / 125 >

この作品をシェア

pagetop