五年越しの、君にキス。


フラフラと会場の出入り口に向かいかけていると、目の前にダークグレーのスーツを着た男性の背中が見えた。

その色や背格好が伊祥と同じくらいだったから、彼を見つけたと思ってほっとして腕をつかむ。


「いさ……」

けれど、驚いたように振り向いた顔は、全くの別人だった。


「あ、すみません……間違えて……」

自分からつかんでおきながら、その人の腕を思いきり振り払う。

軽く混乱してしまった私は、ロクに頭も下げずにその人の前から早足で逃げ出した。

よく考えずに歩き出したのは、会場の出入口とは真逆の方向。

けれど、人違いをして失礼な態度をとってしまった手前、いまさら出入口の方には戻れない。

何度か躓きそうになりながら人並みを掻き分けて、パーティー会場の隅っこまでやってきた私は、窓際に長いカーテンがかけられているのを見つけてその陰に身を隠した。


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