五年越しの、君にキス。
キッチンに使用済みの食器を下げてテラスに戻ってくると、もう伊祥の挨拶は始まっていた。
日本庭園を背景にして立った伊祥が、お客様やカフェオープンに携わった関係者に対してお礼の言葉を述べていく。
その堂々とした姿を少し離れたところからじっと見つめていたら、不意にこちらを向いた伊祥と目が合った。
「初めのご挨拶の際に、こちらのテラススペースはカフェ利用だけでなく、ここでご縁があった方たちの人前式や結婚式の二次会など様々な用途にご利用いただけたら……とお話しさせていただいたかと思います。実はそのような考えが生まれたのは、私もここで大事な人との縁に恵まれたからでして。プレオープンの記念イベントとして、こちらで行うことができる人前式の簡単な模擬実演をさせていただけたらと思います」
イベント?
何も聞かされていなかったのか、カフェスタッフや美藤ホールディングスの伊祥に近い立場にあると思われる社員の気配が微妙にざわつく。
ここまで、プレオープンパーティーは順調に事が運んでいたというのに。どうしたのだろう。
「梨良、来て」
それまでお客様たちを前に語っていた、整然とした声とは違う。
優しく撫でるような甘さを含んだ伊祥の声が、マイクを通して私を呼んだ。