五年越しの、君にキス。


伊祥に注目していたお客様やカフェのスタッフたちの視線が、テラスの端に立っていた私に一気に集まる。

周囲のどよめきや、好奇の眼差しに戸惑っていると、伊祥がにこにこと笑いながら私に手招きをした。

何を言っているのかわからない周囲のささやき声も、無遠慮にぶつけられる視線もすごく怖い。

けれど、こんなに注目された状態で逃げ出すこともできない。

深く息を吸って吐き出すと、私は伊祥のことだけを真っ直ぐに見て彼の前まで歩いていった。

伊祥の数歩手前で立ち止まると、彼が私の手を取ってその左側へと並ばせる。


「どういうこと?人前式の模擬実演って何?」

「うん。せっかくたくさんの方に集まってもらってるから、そういうイベントでイメージをつかんでもらうのもいいかなーって」

「だからって、わざわざパーティーの終盤でそんなことする必要ある?スタッフの方たちの反応からして、伊祥の急な思いつきでしょ?」

「急ではなくて、二日前」

「そういうのを急って言うんじゃ────?」

唇に弧を描いて微笑んだ伊祥が、私の口に人差し指をあてた。


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