五年越しの、君にキス。
「一応、プレオープンのための大事なイベントだから。もうそろそろ黙ろうか」
有無を言わせない口調で私を黙らせた伊祥が、小さく首を傾げる。
私がもう何も言わないことを確認すると、伊祥が私の右手を握ってお客様たちのほうに向き直った。
「人前式はこの場にいらっしゃるゲストの方に、証人となっていただいて、結婚の誓いをたてる挙式スタイルです。本日の模擬実演では、ここにいらっしゃる皆様に立会人となっていただき、誓いの言葉をたてさせていただけたらと思います」
伊祥はそう宣言すると、ふたたび私と向かい合うようにして立って、楽しげに口元を緩ませた。
「私、美藤 伊祥と妻の梨良は、ひと月前に既に無事入籍を済ませ、結婚生活をスタートさせております。本日は、ふたりの絆をさらに強くするために、私から、皆さまの前で結婚の誓いをいたします」
伊祥がそこまで言ったとき、私はこれが本当は模擬実演イベントなんかじゃないことに気が付いた。
これは、ほぼ一般人の私と伊祥との結婚を、ここに集まった企業の重役や美藤ホールディングスの関係者たちに認めさせるためのパフォーマンスだ。