五年越しの、君にキス。
懐かしい距離
「今日は誘いに来ないのかしらね、伊祥さん」
普段よりも店の掛け時計の時間を気にしながらカウンターに立っていると、事務所から出てきた早苗さんが私の横に並んだ。
「いつもならもうとっくに店にやってきて、テーブル席で梨良ちゃんのこと待ってる頃なのに。今日は忙しいのかしらね」
そう言いながら、早苗さんが誰もいない試飲用のテーブル席に視線を向ける。
「さぁ?向こうが勝手に来るだけで、別に約束しているわけじゃないから」
「そう?梨良ちゃんが十二時過ぎた頃からそわそわ時計ばかり見てるから、気になっているのかと思った」
無関心を装いながら、特に並びが乱れてもいない棚の商品を無駄に触って整えていると、早苗さんがふふっと笑った。
さすが、私のことを小学生の頃から育ててくれただけのことはあって、早苗さんはときどき、おっとりした口調でしっかりと図星をついてくる。
動揺して手が滑ってしまい、整えたはずの粉茶の箱がドミノ倒しみたいにパタパタと後ろに倒れた。