五年越しの、君にキス。
今日は連絡もできないくらいに忙しいんだろうか。
今朝の伊祥は私よりも先に家を出たけれど、何も言っていなかった。
毎日訪ねて来られたら少し迷惑に思うくせに、何の連絡もなく訪ねてこないとなると、それはそれで気にかかる。
『今日は来ないの?』
悩みに悩んで、スマホの画面を睨みながらひとことだけメッセージを入れる。
会議中なのか、すぐに既読は付かない。
スマホを事務所のテーブルに置いて、今日のお昼はどうしようかと考えていたら、しばらくして電話がかかってきた。
飛び付くようにしてスマホを取り上げたら、着信の相手は伊祥だった。
嬉しいような、恥ずかしいような、そんな気持ちで緩みそうになる頬をきゅっと引き締めて通話ボタンをタップする。
「はい」
「あ、梨良?ごめんね、何の連絡もしてなくて」
電話に出たとき、聞こえてきた伊祥の声になんとなく違和感を覚えた。
普段よりもクリアでないというか……、少し掠れているような気がする。