五年越しの、君にキス。
「大丈夫?」
ついそう尋ねたら、伊祥のくぐもった笑い声が聞こえてきた。
「どうしてそんな聞き方するの?」
「なんか、声変かなって……」
「第一声だけでそんなこと気付くなんて、さすが俺の奥さん」
「まだ奥さんじゃないから」
「そこ、毎回こだわるよね」
「それで、その声はどうしたの?」
きっと何かあるはずなのに、ふざけて笑う伊祥に少しイライラとする。
「起きたときからちょっと微妙だなーとは思ってたんだけど、会社についてから体調悪くなっちゃって。頭痛で仕事にならないから、今さっき帰ってきた」
「そうなの?」
今朝一緒に朝食を食べたときの伊祥は、そんなそぶりを少しも見せていなかった。
思えばいつもより若干口数は少なかったかもしれないけど、朝の時点では声も普通だったし、笑って家を出て行ったから気付かなかった。
「お昼に誘いに行けないこと、早めに梨良に連絡しなきゃとは思ったんだけど、これでも結構ふらふらで……電話するの遅くなってごめんね」
「それは別にいいんだけど……熱は?」
「んー。ありそうだけど、体温計出す気力なくて。もう布団の中」
会話を続けるほどに、伊祥の気怠げな気配が伝わってきて、少し心配になってくる。