五年越しの、君にキス。

今朝のオムレツも、冬木さんに教えてもらったとおりに作ったつもりだけれど……もしかしたら味が少し違うんだろうか。

もう一度、冬木さんから教わった手順メモを見返してみたほうがいいかもしれない。

悶々と考えていたら、いつの間にか食事を終えた伊祥が、コーヒーカップを手に持ちながら話しかけてきた。

「あれはもう作んないの?昔、梨良が俺の家に来たときにたまに作ってくれてた、トーストに目玉焼きのっけたやつ」

「あぁ……」

伊祥に言われて、五年前に平然と伊祥の前に目玉焼きトーストとコーヒーを出していた自分が恥ずかしくなる。

いや、目玉焼きトースト自体は悪くない。マヨネーズを食パンの縁に塗って、卵をのせてトーストしたら、ものすごく美味しいのだ。

だけど、あれを伊祥に普通に提供していたときの私は、彼が美藤ホールディングスの御曹司だということを本当の意味で理解していなかったし、彼が普段から家政婦さんの作った栄養バランスの整った食事をとっていたことも、ホテルで提供されるようなしっかりとした朝食を食べていることも知らなかった。

伊祥だって、敢えて私にそんなことを話さなかった。

普段はしっかりとした朝食を食べていた人が、たまに私が提供していた目玉焼きトーストをどんな気持ちで食べていたのだろう。

< 60 / 125 >

この作品をシェア

pagetop