五年越しの、君にキス。
「やっぱり、伊祥が普段から食べ慣れたものを作ったほうがいいのかなと思って」
「ふーん。俺、結構好きだったよ。梨良の作る目玉焼きトースト。今度また作ってよ」
愛想笑いを浮かべながら適当な言い訳をしたら、伊祥の口から意外な言葉が飛び出してきたから驚いた。
当時の伊祥からは何の感想も聞いたことがなかったけど、ちゃんと美味しいって思ってくれてたんだ。
伊祥の生活レベルに合わせようと無理しなくても、伊祥はそのままの私のことを見ていてくれるのかもしれない。
ぼんやりとそんなことを考えていると、コーヒーを飲み終えた伊祥が立ち上がった。
「ごちそうさま」
「あ、はい」
私に優しく笑いかけた伊祥が、一度部屋に戻ってスーツの上着とコート、それから仕事用の鞄を持って出てくる。
「そろそろ行くね」
スーツの上からコートを羽織った伊祥が出て行こうとするから、私は食べかけの朝食を置いて慌ててあとを追いかけた。
「あ、そうだ」
玄関までついていったところで、伊祥が何か思い出したように私を振り返る。