五年越しの、君にキス。
「今日は昼間に外出予定があって、ランチに誘いに行けないんだ。その代わり、仕事終わりに梨良のことを店まで迎えに行っていい?」
「どうして?」
ランチタイムに伊祥が柳屋茶園に来ることは日常茶飯事だけど、仕事終わりに店まで迎えに来るなんて言われたのは初めてだ。
「ん?たまには梨良とデートするのもいいかなーって」
「え?」
デート!?
「俺との約束を忘れてひとりで帰ったりしないようにね」
動揺する私を見て、伊祥が小さく肩を揺らして笑う。
そうして優しい目で私を見つめながら肩を抱き寄せると、軽いリップ音をたてて私の額にキスをした。
「いってきます」
笑顔で手を振って出かけていく伊祥の背中を見送りながら、まだ唇の感触が残る額を撫でる。
デート、って言ってたけど。それって、どういうことだろう。
ランチタイムに一緒に食事するのだって、充分デートみたいなものだと思ってたけど。
そういうのとは、違うってこと?
考え始めると、そわそわとしてしまって落ち着かない。
キスの余韻の残る額が、妙にむずむずしてこそばゆかった。