五年越しの、君にキス。
婚前デート

柳屋茶園の閉店間際、お客様にお茶を出すのに使った急須や茶碗を事務所のキッチンへと運ぶ。

仕事終わりに店に迎えにくるという伊祥のことをずっと店の入り口を気にかけていたのだけれど。今のところ、まだ彼がやってくる気配はない。

そわそわしながら急須や茶碗を洗っていると、事務所の入り口から早苗さんの声がした。

「梨良ちゃん、ちょっといい?」

「はい」

必要以上に神経が過敏になっているのか、普通に呼ばれただけなのに肩がビクつく。

水を止めて振り向いたら、早苗さんが口元に手をあてながらふふっと笑った。

「後藤さんっていう方が来られてるんだけど、わかる?伊祥さんの秘書の方だっておっしゃってるんだけど」

「後藤さん?」

初めて聞く名前だ。秘書の方が来られたなんて。何かあったのだろうか。

伊祥が迎えに来られない緊急の用でもできた、とか。

もしかしたら、伊祥が今朝言っていた「デート」の予定がキャンセルになってしまったのかもしれない。

そう考えるだけでがっかりしてしまう私は、自分で思う以上に伊祥との約束を楽しみにしていたらしい。

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