五年越しの、君にキス。

「私、伊祥様の秘書を務めている後藤と申します。本来は社長がこちらまで出向く予定だったそうですが、スケジュールの変更で来られなくなりまして。私が代わりに梨良さんをお迎えにあがりました。社長からは、梨良さんにも連絡を入れたと伺っているのですが……ご存知なかったですか?」

渡された名刺には、伊祥が社長を務める会社名が書かれている。後藤さんに改まって挨拶をされて、ようやく警戒心が解けて、いろいろな事情を一度に理解した。

どうやら、伊祥との約束がドタキャンになったわけではないらしい。

昼休みに確認したきりカバンの中に放ったらかしているスマホに、メッセージがきているのかもしれない。

「すみません。仕事中はスマホを手元に持っていなくて」

「そうでしたか。実は社長から、梨良さんのことを車である場所までお連れするように頼まれていまして……」

「あるところ?」

「はい。お仕事はもう終わられていますか?」

「あと少し片付けが残っているので、少しお待ちいただいてもいいですか?」

「承知しました」

笑顔で了承してくれた後藤さんに軽く頭を下げる。

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