五年越しの、君にキス。
後藤さんにベリーヒルズ・モールの駐車場まで案内された私は、そこに用意されていた黒の高級車に乗せられた。
後藤さんの運転でベリーヒルズビレッジの敷地を出た車は、大通りを進んでいく。
「どこへ向かうんですか?」
「申し訳ありません。行き先に関しては、梨良さんにはお伝えしないように社長から言われておりまして……」
少し身を乗り出して訊ねると、運転席の後藤さんがミラー越しに私を見ながら申し訳なさそうに肩を竦めた。
後藤さんは明らかに私よりも年上なのに、こちらが恐縮してしまうくらい、私に対する話し方が丁寧だ。
行き先は伝えられないって…… いったいどこに連れて行かれるんだろう。
「心配されなくても大丈夫ですよ。おかしなところではないので」
走行速度を緩めて左折の指示器を出した後藤さんが、左右を確認しながらクスリと小さく笑った。
ふとバックミラーを見ると、そこに眉間を寄せた自分の顔が映っていて。慌てて、指先で額をこする。
「もうすぐです。そこの通りに、一度車を止めますね」