ワンルーム・ビターキス
「さぁほら、持って持って〜!飲みなって」




ついにはグラスを握らされてしまった。




もう飲むしかないのかな…



これ以上拒んだら怪しまれちゃう。




そう諦めかけた時だった。




「おい中村、その子そろそろ門限近いって言ってたから離してやれ」




私の手からヒョイっとグラスを奪って中村さんをつかむ腕。


この低い声…




「クスノキ、さん」




さっきまで女の子を冷たくあしらってお酒を飲んでいたクスノキさんだった。




ぽかんとしてるうちにクスノキさんは置いてあった私の荷物とコートを手に持って。




「行くぞ」




そのまま手を引かれ、私は店を出てしまった。


何が、起こっているんだろう。




「あ、あの!私お金払ってない…」


「俺とあんたの分は置いてきた。安心しな」




店から少し離れたところで腕は解放され、カバンを渡してくれた。




助けて、くれたんだ…


門限なんて一言も言ってないことがその証拠だ。




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