ワンルーム・ビターキス
「…っ」




道路にしゃがみこみそうになった私は突然背後から腕を掴まれた。





この声、この香り。


知ってる。




「なん…で…」




その人物を見て、私は目を丸くした。




なんでいつも、私が助けて欲しい時に現れるの?


もしかしてスーパーヒーローなの?なんて。




「楠木、さん…っ」




その姿を捉えた途端、何かがプツリと切れたように涙が溢れた。


ずっと前から知り合いな訳でもないのに。


むしろまだ知り合ったばっかりなのに。


どうして私は、この人に心を許してしまっているんだろう。




「無事だったか…よかった」




楠木さんは乱れた髪をかきあげた。

額には、滲む汗。




もしかして走ってきてくれたのかな。


私のために、そんなことしてくれる人がいたんだ…




「何があったのか聞く。とりあえずついてこい」




楠木さんは私の手首を掴んで歩き出した。




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