ワンルーム・ビターキス
騒動を聞いたり燃え盛る炎や煙を見て集まったであろつ人だかりやマスコミを通り抜け、私は路肩に止まった中型自動車へ。


たぶん、楠木さんの愛車。

見かけによらず地球にいいタイプの車だった。




合コンの帰りに少し聞いた話によると、ここは楠木さんの通勤経路ど真ん中。


私の肩にそっとかけてくれていたジャケットからは優しいシトラスの香りがした。




パタン


「…落ち着いたか?」




車の助手席でぼーっとしていると、楠木さんは近くの自販機でホットミルクティーを買ってきてくれた。




「…だいぶ落ち着いてきたんだすけど…まだ心のどこかで全部夢なんじゃないかって、思ってます」




あの家には少なからず思い出があった。


そして、思い出の品だっていくつもあった。


小学校中学校の卒業アルバム、自分の小さい頃の写真や友達と撮ったプリクラ。


全部、燃えちゃったのかな。




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