ワンルーム・ビターキス
今朝まであった白い外壁の二階建てアパート。


そして、その2階にたしかに存在した私の部屋。




「…無理もねぇよ。自分の家が燃えてたことなんてないだろ」




怖かったな。


そう言って、楠木さんは子供をあやす様に私の頭を優しく撫でた。




「で?あの女の人と口論っぽくなってたけど」



「あの人は大家さんなんです。私が1人なのを知ってていつもお世話になってて…でも、もう大家さんには迷惑かけたくないから」




大家さんは私のことを本当の孫のように可愛がってくれていた。


ご飯のあまりがあったら差し入れしてくれるし、風邪をひいたら薬を買ってきてくれた。


家庭菜園のお野菜をくれたり、会う度笑顔で声掛けてくれたり…



ただでさえアパート全体を見なきゃ行けなくて大変なのに、私の存在が仕事を増やしてしまっていたんだ。


人に迷惑かけずに生きるって、実家を出た時に決めたはずなのに。




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