ワンルーム・ビターキス
「緋和!」




ドサッ


倒れ込んだのに痛くなくて、目を開けると翠に抱きとめられていた。




「緋和…立てるか?」




私をふわりと抱き寄せて優しく問う翠に、私はこくりと頷く。


そのまま支えられてリビングに連れて行ってくれて、私はソファに腰掛けた。




「…何があった?」


「……かもしれないの…」




手の震えを止めたくて、右手に左手を重ねてぎゅっと握った。




震えが、止まらない。


何かされたわけじゃないのに。

まだストーカーされてるって、決まったわけじゃないのに。



怖くて、仕方ない。




思い浮かぶのはバイト先を出る直前に鏡越しに見た林先輩の顔。


私をきつく睨んで、恨むような…



その目の奥は、獲物を捉えた獣のようにギラギラと燃えていた。




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