余裕なきみにチェリーランド
「七原くん、七原桃葉くん!」
ナナハラ モモハ、片仮名にすると少しだけ言いにくい。だけど世界でいちばんすきな単語、なんていったらまた気持ち悪がられちゃうけどね。
「ああ、春咲さん、」
普段無表情なきみが、少しだけ顔を歪ませる。うざったそうなその顔はもう慣れっこ。というか、桃葉くんはどんな表情をしていたっていいよ。
「もう、まーた嫌そうな顔してる!」
「……」
「黙らないでよ、桃葉くん!」
「毎日毎日飽きないね」
飽きるわけないのに、桃葉くんったらバカだなあ。
放課後、美術室。
春が終わるにおいを窓の外から感じる季節。桃葉くんはいつも私より先にここにいて、何故か読書にふけっている。私と同じ美術部員なわけでもないし、絵を描くのがすきなわけでもない。ただ、美術室のにおいと静けさが読書するのにちょうどいいみたい。