余裕なきみにチェリーランド

はっ、いけない忘れていた。
桃葉くんは今、私にめちゃくちゃ怒っているんだった。
思い出して青ざめる。桃葉くんの盛大なため息は、きっと私に向けて。


「あ、あの、桃葉くん」

「……なに」

「ごめんなさい!!」


がばっと勢いよく頭を下げる。
そんな私に桃葉くんが冷ややかな視線を向けているのを気配で感じる。


「……何に対してのごめんなさい?」


それは、ええっと。
考える。ええと、桃葉くんが私に怒ってるから……、あれ?

桃葉くんっていったい私のどこに怒っているんだっけ。


「わ、わかんない……」

「わかんないのに謝るの?」

「う、だって、水羽くんが、桃葉くんがめちゃくちゃ怒ってるって」

「……水羽が?」


一瞬、きょとんとした桃葉くん。
こくんと首を縦に振ると、桃葉くんはすうっと目を細めた。


「……つうか、水羽とは普通に話すんだ」


素っ気なく呟いたかと思えば、黙り込んでしまう。
手に持った本に視線を落として、私とは目も合わせてくれない。

つきん、と胸の奥が痛くなった。

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