余裕なきみにチェリーランド


「押してダメなら引いてみろって……それに、雑誌にも書いてあって……、つれないフリをしてみたらいいって、それで」

「それで?」

「も、桃葉くんに振り向いてほしくて!」

「……馬鹿じゃない?そんなので俺が振り向くと思った?」

「物は試しって言うじゃん! だって、桃葉くん私に全然気がないから!」


結局、作戦は失敗に終わってしまったけれど。
今更ながらしょぼんと肩を落とす、と。


「紡ちゃんって、ほんと馬鹿」

「そんなに言わなくても、もうわかってるよ……!」

「……全然わかってない」

「っ!?」


さっきまであんなに目が合わなかったのに。
桃葉くんの瞳が私をまっすぐにつかまえて、熱っぽく揺らいでいる。

どくん、と心臓が単純に飛び跳ねる。
桃葉くんってそんな顔もできたの。知らなかった。


「作戦だかなんだか知らないけど、そんな下手なカケヒキしても無駄だって、普通ちょっと考えればわかるよね」

「っ、う」

「そもそもそんなことしなくても、紡ちゃんのことしか見てない」

「……え」


待って。今、桃葉くん何て。
さらっと危うく流しかけたけれど、桃葉くん、今とんでもないことを口走りませんでしたか。

ない頭をフル回転して、巻き戻し、脳内再生。
え、え、え。でも、だって……、こんなのおかしい。空耳?

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