余裕なきみにチェリーランド
大パニック。
何が起こったのかわからないまま絶叫する私、桃葉くんはさすがに慣れたのか涼しい表情で私が慌てふためく様子を観察している。
「じょ、冗談ですよね!騙されないよ!」
「冗談にしていいの?」
「っ、な!よくない!……けど」
「けど?」
「だって、桃葉くんが私を……好き……とかおかしいじゃん!いつも、うるさいとかぶっ飛んでるとか、そういうことばっかり言ってくるのに!」
「だって事実だし。それに、そこが紡ちゃんの可愛いところなんじゃないの」
「かわ!? ……っ、じゃなくて、それに、好きとか言う割にすごーく冷静だし!いつもいつも余裕たっぷりで、ぜんっぜんそんな風に見えない!」
欲しいと思ってもくれない、掴もうと思っても掴めない、いつだって顔色ひとつも変えないで飄々と隙間から逃げていってしまうきみのその余裕さが、ずるくてちょっと憎くて、いつか崩したいと思っていた。
「鈍感馬鹿」
「はい……?」
「俺が毎日毎日美術室に来てるの、本を読むためだけだと本気で思ってる?」
「っえ、違うの?!」
目を見開いた私に呆れた顔。
答えは与えてくれないまま、桃葉くんは言葉を重ねる。
「なのに紡ちゃんは急に何も言わずに来なくなるし、かと思えば逃げられるし、それでも俺が平気だったと思ってる? 待ってたら会えるかなって俺がずっと美術室にいたことも知らないでしょ」
「ええっと、つまり……」
「……紡ちゃんといて余裕だったことなんてないってことだよ」