きみにしかかけない魔法
「あだ……っ!?」
突如、自分の口からマヌケな悲鳴があがる。
ゴチーン、と鈍い衝撃音。
額と鼻先がジンジンと痛い。
うう、物凄く痛い。
折れては……ないかな。
鼻血も出ていない、みたい。
とりあえずよかった。
ほっと胸を撫で下ろす。
すぐに考え事や空想に夢中になってしまうのは私の昔からの悪い癖だ。
下を向きながら考え事に夢中になって、周りが見えなくなってしまった結果、そのまま壁や柱に突進していってしまうこともしばしば。そう、今みたいに。
昼休み、私のお気に入りのスポット、中庭にて。
思いっきりガラス戸に体当たり。
その拍子に抱えていた紙の束をバサバサと落としてしまった。
散らばったそれらを拾い集めるべく屈もうとした、そのとき。
「大丈夫?」
私じゃない、誰かの声が耳に届く。
心地よく響くテノールは、たぶん、男の子のものだ。
「誰……?」
声の持ち主を探るべく、前後左右きょろきょろと見回すけれど、見つからない。
そもそも、誰もいない。
もともと、昼休みにわざわざ中庭を好んで訪れるのも私くらいなのだ。
そんなに広々とした空間ではないものの、快適な穴場だと思う。
それを、いつも独り占めしているの。