きみにしかかけない魔法
「え……」
思いがけない言葉に思わず顔をあげてしまった。
きちんと見上げてみると、さっきまでぼやけて見えていた人たちが鮮明に見えてくる。
私とは正反対にいると思っていた人たち。
笑顔で私と水羽くんを囲んでいた。
「おい、おまえらヤメロよー!」
「ハハ、水羽照れてるじゃーん」
「それは言わない約束だろー」
「若月さん、水羽ね、うちのクラスの廊下の窓からよくこの中庭見てたんだよー」
焦って照れたように「もーばか!言うなー!」と叫ぶ水羽くんの耳が信じられないくらい赤く染まっていて、こっちまで恥ずかしくなってくる。
というか、今の言葉が信じられない。数日前、たまたまここで会ったと思っていたのに。
水羽くん、本当は私がいつもここにいること、知ってたの?
「若月さんって絵上手なんだね」
「えっと、」
ふと、そのままにしていた漫画の原稿を見た男の子がそう言った。
反射的に紙を裏返して隠す。
馬鹿にされたらどうしようって、そんなことを思ってしまったから。
「あー!すっごい上手いのに!」
「そ、そんなことないよ、」
「誰にでも出来ることじゃないでしょ、すごいよ若月さん」
「な、紫奈はすげーんだよー」
誇らしそうに水羽くんが口を挟むと、「おまえがドヤることじゃねーだろ!」と突っ込みが飛んできて、思わず笑ってしまった。