きみにしかかけない魔法


「え……」



思いがけない言葉に思わず顔をあげてしまった。

きちんと見上げてみると、さっきまでぼやけて見えていた人たちが鮮明に見えてくる。

私とは正反対にいると思っていた人たち。


笑顔で私と水羽くんを囲んでいた。



「おい、おまえらヤメロよー!」

「ハハ、水羽照れてるじゃーん」

「それは言わない約束だろー」

「若月さん、水羽ね、うちのクラスの廊下の窓からよくこの中庭見てたんだよー」



焦って照れたように「もーばか!言うなー!」と叫ぶ水羽くんの耳が信じられないくらい赤く染まっていて、こっちまで恥ずかしくなってくる。


というか、今の言葉が信じられない。数日前、たまたまここで会ったと思っていたのに。


水羽くん、本当は私がいつもここにいること、知ってたの?



「若月さんって絵上手なんだね」

「えっと、」



ふと、そのままにしていた漫画の原稿を見た男の子がそう言った。


反射的に紙を裏返して隠す。

馬鹿にされたらどうしようって、そんなことを思ってしまったから。



「あー!すっごい上手いのに!」

「そ、そんなことないよ、」

「誰にでも出来ることじゃないでしょ、すごいよ若月さん」

「な、紫奈はすげーんだよー」



誇らしそうに水羽くんが口を挟むと、「おまえがドヤることじゃねーだろ!」と突っ込みが飛んできて、思わず笑ってしまった。




< 21 / 30 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop