きみにしかかけない魔法
「……顔を上げなかったら、気づかなかったな」
「顔を上げる?」
「……私ね、ずっと、下を向くのが癖で……」
ぎゅっと、スカートを握る。
自分のことをさらけ出すこと、誰かに自分の話をすること、すごく苦手なことだ。
例えばよくある朝のHRでの1分間スピーチや、夏休みの自由研究の発表、中学生の時、絵を評価されて全校生徒の前で賞状をもらったときは、全身の震えがとまらなかった。
とにかく目立つことが苦手、人前に立つことが苦手、自分の話をすることが……すごく、苦手だ。
ふと、水羽くんを見る。
まっすぐに私を見つめる水羽くんの瞳は透き通っていて、私のたどたどしい話し方でも、決して急かそうとはしない。
次の言葉を、待ってくれているんだ。
ぐっと、スカートを握る手に力を込める。
「下ばかり向いていて、暗くて怖い、って……周りの人にそう言われても、何も反論できなくて、ずっとひとりで、絵を描いてたの」
「うん」
「でも、ね」
水羽くん、きみに出会って、きみと話をするようになって、少しだけ見上げた世界は、いつもよりずっときらきらしていたんだよ。
そんなふうに、ゆっくりと言葉を紡ぐと、水羽くんは嬉しそうに目を細めた。
優しい表情をするひとだ。
私が今描いているヒーローにやっぱり適任、ぴったり、少女漫画の中の人みたい。