きみにしかかけない魔法


誰かのことをこんなにも好きになる気持ち、漫画の中でしか知らなかった。想像でしか描けなかった。


だけどね、今描いている漫画の主人公も、現実世界の私も、ヒーローの水羽くんに、どうしようもなく恋をしているんだよ。



「……紫奈、ずるいよそれはー」

「え、」



右手で口元を覆った水羽くんは、一瞬下を向いた後、すぐに上目遣いで私をじっと見つめる。

その頬はいつもよりずっと赤く染まっていて、私の心臓を捉えて離さない。



「さっき聞いてたでしょ、おれね、前から紫奈のこと見てたの」

「そんな、夢みたいなこと……」


「何描いてるんだろうって、ずっと気になってて。あの日、紫奈のイラストを拾って、初めて話した日……正直、めちゃくちゃラッキーって思った」



ラッキーなのは、絶対私の方なのに。



「……そろそろ、漫画読ませてくれる?」



この漫画を読んだら、水羽くんはヒーローが自分だって気づくかもしれない。


主人公と私は似ていて、ヒーローの水羽くんにどうしようもなく惹かれてしまう。内気な主人公がヒーローに思いを伝えようとするけれど、ラストはまだ描けていなくて──。



「おれも、紫奈のこと、もっと知りたい」



水羽くん、ずるいのは、やっぱり水羽くんの方だよ。



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