きみにしかかけない魔法
「う、夢みたいで……」
「はは、あのさ、紫奈は俺のこと魔法使いって言ったけど」
「うん、」
「おれはね、紫奈のこと、魔法使いだって思ってるよ」
───『紫奈にしか描けない魔法』
水羽くん、ずるいね、わたしも、そう思ってるんだよ。
「───じゃあこのきもちは、水羽くんにしか、かけられない魔法だ」
「はは、紫奈がそういうなら、そうなのかも」
“下ばかり向いていて、暗くて怖い”
私は周りからそう見られてるって思ってた。
『下向いてても、いいことないよ』
アドバイスみたく、そう言われたことがある。
あのときは、曖昧に頷いた……けれど。
きっと、そうじゃない。
私の世界は暗くなんてない。
いいこと、って上のほうばっかりに転がっているわけじゃない。
あの日、下を向いたら水羽くんがいて、わたしの絵を拾ってくれた時みたいに。
描いた漫画の世界を、きらきらしているって言ってくれたように。
水羽くん、きみのおかげで、上を向けた。
きみのおかげで、下を向くのだって、悪くないって思えた。
「水羽くん、」
「うん?」
「この漫画の続き、ハッピーエンドで、描いてもいいですか?」
「はは、もちろん」
言葉と同時に、水羽くんの手が私の手を握った。
「でも現実は、ハッピーエンドからはじまりだよ、これからよろしくね、紫奈」
ああ、どこまでもずるいよ、水羽くん。
〖きみにしかかけない魔法〗fin.