きみにしかかけない魔法
それは今日も同じはずで、見渡す限り人影もなく……。
でも、たしかに声は聞こえた。
とすると、もしかして小人か妖精さん?
────なんて、いつもの調子で空想コースに入りかけた私の思考回路を引き戻したのは、またもや聞こえたあの声だった。
「こっちだよ」
前でも後ろでも右でも左でもなかった。
その声がした方向は。
「下!?」
慌てて、地面の方に目を向けると、中庭の芝生の上にそのひとは文字通り、転がっていた。
そして、見覚えのある顔にまたもや驚いて声を上げる。
「七原くん……!」
「わあ、知ってくれてるの?俺の名前」
「七原 水羽くんでしょう、知ってるよ……っていうか、ごめんね今すぐ拾います!」
散らばった紙束の一部が、七原くんの体の上に思いきり乗っかっている。
うわあ申し訳ない、と慌てて回収すると、七原くんも途中で起き上がって、あたりに散らばっていた残りの紙を一緒になって集めてくれる。
とん、と丁寧に紙の端をそろえて、それから土埃も払ってから返してくれる。優しいな。