きみにしかかけない魔法
大したことないよって首を振ると。
「俺、絵が下手だからさー、余計にそう思うのかも」
「うそだあ、絶対上手だよ」
七原くんって、なんでも器用にこなしてしまえるイメージがある。
「ほんとだって。見る?」
「えっ」
何を、って尋ねる前に、七原くんはスマホを取り出して。
しゃしゃっと軽く操作したあと、画面をこっちに向けてくれる。
映し出されているのは、一枚の写真。
「これ、俺が描いたんだけど何だと思う?」
「……にんじん?」
「猫です」
「え!?」
「やっぱだめかー。桃葉にはちくわにしか見えないって言われたし」
たしかにちくわに見えなくもないな……って。
これ、猫なの!?
けっこうな衝撃だ。
絵が下手って、謙遜じゃなかったんだ、と失礼ながら納得してしまう。
「ふふっ」
味のある猫ちゃんの絵に、じわじわと可笑しくなってきて。
思わず、声をあげて笑ってしまう、と。
「ふーん、紫奈ってそんな感じで笑うんだ」
「変……だった?」
「いやー、かわいいなって」
「お世辞はいいよ……」
「なんでお世辞だと思うの」
「だって、七原くんって誰にでもそういうこと言ってそう」
「えー、言わないよ。てか、七原じゃなくて水羽って呼んでほしいなー」