きみにしかかけない魔法
甘えるみたいに、きゅるるんとした瞳で見上げられる。
その瞳といい、仕草といい、まるでワンコみたいだ。
「う、いきなり下の名前はハードル高すぎでは」
「だって、七原だと桃葉と紛らわしいし」
「……うーん」
たしかに一理あるけれど、と渋る私に。
「ね、お願い」
「うっ」
その瞳に弱いかもしれない。気がつけば頷いてしまっていた。
「水羽、くん」
「それでよし」
満足気に、うんうんと頷いた水羽くん。
そういえばさ、と口を開いて。
「紫奈、俺と桃葉のこと間違えなかったね」
「え……?」
「一発で水羽の方だって当ててきたでしょ。あれ凄かったな、俺と桃葉って生き写しみたいに顔そっくりだから、口開くまでどっちかわかんなかったってよく言われる」
「ええと、それは……」
私が、水羽くんのことをよく見ているから、だと思う。
見ている、というか観察というか。
実は、実はの話なんだけれど。
今描いている漫画のヒーローのモデルなんだ、水羽くん。
許可も取らず、勝手に……だけれど。
学園もののラブストーリー。廊下でたまたま水羽くんを見かけた時に、降って湧いたように思いついた物語。
そこにふさわしいヒーロー像はやっぱり水羽くんだった。