キミだけのヒーロー
その言葉を聞いた瞬間、オレは手に持っていたジュースをコンクリートの床に落としていた。

そしてサトシのネクタイを掴み上げた。


「ちょっ……! うわっ!」


体勢を崩しかけたサトシの手からも缶ジュースが落ちた。

2つの缶が転がる音が響く。


「ストーカーって何やねん!」


わかってる。

頭ではわかってる。

サトシに罪はない。

だけど、サユリをストーカー呼ばわりされて、オレは感情を抑えられなくなってしまった。


「そういう言い方すんなや! その子だって、お前のこと一生懸命好きなだけやろ! ふるにしても、ちゃんと彼女に向き合ってあげろや!」


いや、サユリのためだけではない。

誰かが自分を好きになってくれるってすごいことだとオレは思う。

もちろん、全ての恋が両想いになれるほど、世の中簡単じゃない。

自分が好きでもない相手に思われることは迷惑な場合もあるかもしれない。

だけどきっと、サトシにはわからない。

いくら想っても届かない気持ちを抱えた者の苦しみなんて……。

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