キミだけのヒーロー
お姉さんはタオルをオレの手に返しながら、優しい目でオレを見つめる。


「わたしは典子の魂がここへやってきたなんて話はちょっと信じられないな。そのタオルをくれた子は別人だと考えるべきなんじゃないかな」


「あ……はい。そうですよね。すみません」


急にいたたまれない気持ちになった。

そもそも最初はこのタグに書かれていた名前だけで、これが北野典子のものだと決め付けた。

そしてそれからは先入観を拭い切れず、北野典子のことをまるで霊のように扱った。

考えてみれば、失礼な話だよな。


「あの……勝手に勘違いして本当にすみませんでした」


オレは深々と頭を下げた。


「あ! いいのいいの! わたしは気にしてないから。むしろ嬉しかってんよ」


「え?」


お姉さんの言葉に、オレは下げていた頭を勢いよく上げた。


「典子の時間はこの3年間止まったままやねん。引っ越してすぐに事故に遭ったから、名古屋には知り合いもいなくてね。わたし達家族以外、誰もあの子を気にかけてる人なんていなかった。そのせいかな……。眠ってて意識なんてないのに、わたしにはまるで寂しがってるように見えてた」


「……」


「だから、誰かがあの子のことを気にかけてくれてたってことだけで、わたしは嬉しかってんよ」


そう言ってにっこり微笑むお姉さんの顔を見ていると、ギュッと胸がしめつけられるような気分になった。


オレには想像もできない。

家族の誰かが何年間もずっと眠ったまま意識の無い状態であること。

どれほど不安で、どんな想いを抱えているんだろう。


「じゃ、わたしもう行くね。新幹線の時間があるから」


そう言ってオレに背を向けて去っていこうとするお姉さんをオレは呼び止めた。


「あの……」
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