キミだけのヒーロー
相手チームも、負け試合だとわかっているんだろう。

素人のあたしから見てもわかるぐらい、イマイチやる気がないようだった。


そんな中、一人だけは違っていた。

彼は無理だと思われるボールも取りに行き、どんな角度からでも諦めずにシュートを打った。

その姿は、ある意味滑稽ではあったけど、あたしは彼から目が離せなかった。


そして試合開始から15分ほど経過した頃、彼はほんとうにあり得ないぐらいの位置、ゴールポストのほとんど真横、ゴールラインギリギリからシュートを打った。

ボールはまるでブーメランのようにキレイな弧を描いて、ゴールに吸い込まれていった。


先制点を取られたことに呆気にとられる、うちのサッカー部員達。

一方飛び上がって喜ぶ彼にチームメイトが駆け寄って次々に飛びつく。

みんなにもみくちゃにされて髪なんてくしゃくしゃになってる。

彼の笑顔からこぼれる白い歯が印象的だった。


たった1本のシュートで、さっきまでの空気ががらりと変わった。

本来なら手を抜いてでも勝てる相手であるはずなのに、うちのチームは必死になってた。

そして、相手チームも波に乗って、どんどん良いボールを彼に集める。

すごいって思った。

たった一人で試合のムードを変えてしまった彼のことを。
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