キミだけのヒーロー
試合はことのほか接戦だった。

だけど、元々の実力に差がありすぎたのだろう。

結局、2対1で、うちのサッカー部がリードしていた。

試合も終盤になると、相手チームは見るからに疲れ、ほとんどの選手の動きが鈍くなってしまっていた。

そうなると士気も自然と下がってくるものだ。

だけど、彼だけは違っていた。

もう残り時間わずかであっても最後の最後まで諦めていなかった。


いつの間にかあたしは両手を握り締めて祈るように彼を応援していた。



ホイッスルが響き、試合が終わった。


負けてガックリと肩を落としている彼をあたしは目で追った。

彼はうなだれ、足をひきずるようにして、グラウンド脇の水飲み場へ行った。


そしてあたしは自分でも信じられない行動に出た。

持ってきていた鞄の中にたまたまタオルが入っていたので、それを手に彼の元へと行った。

案の定彼はタオルを持ってきておらず困っているようだ。


知らない人にこんなことされたら迷惑かな……

そう思ったけど、もう体が勝手に動き出していた。

あたしはドキドキしながらもかなり強引にタオルを差し出した。


彼はうつむいたままそれを受け取った。


泣いているのだとすぐにわかった。


あたしも負けて悔しい思いは何度も味わっていたので、その気持ちはよくわかった。


こんな姿きっと見られたくないはず。

この場にいてはいけない気がして、あたしは走り去った。
< 172 / 194 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop