キミだけのヒーロー
「ケンジのことずっと好きやったよ。……あの日からずっと。アルバム見てっていうのはウソやったけど……。一目ぼれっていうのはホント…」


サユリの言葉はそこで途切れた。


オレが唇で彼女の口を塞いだせいだ。


その瞬間、オレ達を包む世界の全てが、まるで動きを止めたような気がした。


さっきまで煩かった蝉の声も、木々を揺らす風の音も

オレの耳には何も入ってこない。

ただ、今触れ合っている温かい唇だけが、これが夢ではないのだと実感させる唯一の物のように思えた。


オレはゆっくりと唇を離した。

突然のキスにサユリは目を丸くして驚いている。


「泣き虫」


そう言って、サユリの涙を拭い、頬にかかった髪を払った。

両手でサユリの頬に触れて、もう一度顔を近づけてお互いの額をコチンッとくっつけた。


「ケンジもやん」


サユリは泣き顔のまま笑った。

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