キミだけのヒーロー
《傘ですか? 男物ですよね?》


リカコちゃんはコクンと頷く。


《そうなんです。急な雨に困って雨宿りしていたら、通りすがりの人がこれを貸してくれたんです。なかなか受け取ろうとしないわたしに、『これは幸運の傘だよ。これ持ってたらいいことあるよ』って言って》


《親切な人ですねー》


《実際に、この傘を持って受けたオーディションに合格して……。すぐにでもお礼を言いたかったんですが、名前も住所も聞いてなかったから、ずっと返しそびれてて》


《そうなんですかぁ……》


《でも、それ以来この傘はわたしの宝物なんです。今でも、何か大事なことがある時にはいつもこれを持っていくことにしてるんです。あと、辛い事があった時もこれを見て勇気付けられてます》


《じゃ、今度のハリウッド映画のオーディションもこれを持っていったんですか?》


《もちろんですよ》


《まさに“幸運の傘”ですね》


《はい!》


《その傘、名前は書いてないんですか?》


そう言って、司会者は傘を手に取りじっくりと眺める。


《紐の部分に、うっすらと何か書いてはあるんですけど……》


リカコちゃんはそう言うと、折りたたみ傘の革紐の部分を、目を細めて見ている。
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