キミだけのヒーロー
女の子とキャッチボールをするなんて初めてで、オレは少々戸惑っていた。

そんなオレにお構いなしに、適度な距離をとるサユリ。

その距離は女の子にしたら遠いんじゃないかってぐらい離れていた。


おいおい……ここまで届くのか?

なんて考えていると、オレの心を読んだようにサユリが言った。


「手加減なしね!」


そう言って、ボールを構える。


オレは余裕かまして、はいはい……なんて適当に相槌を打ってサユリのボールを待つ。

だけど、サユリが片足を軽く上げ、ボールを手元から放した瞬間、ヤバイと直感した。

オレは急にマジになって身構える。


パシッ!


ボールが手の中に入った瞬間


「い……つぅ……」

オレの口からは情けない声が漏れた。


サユリのボールを受けた手のひらがじんじんと痺れる。


「ごめん! 本気で投げちゃった」


そう言って、申し訳なさそうに両手を顔の前で合わせるサユリ。


「すげー球、投げんなぁ」


オレは感心しながらサユリにボールを返す。


「小さい頃からいつもお父さんとキャッチボールばっかりやっててん」


またサユリからオレへボールが放たれた。

今度はかなり手を抜いているであろう、緩やかな投げ方で。


「へぇー。女の子でこれはマジすごいって」


本気で感心していた。

と同時にサユリの意外な面を見たような気がした。
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