キミだけのヒーロー
「ごめんな。いつも待たせてばっかりで」


「え?」


ふと毎日サユリにこんな風に待たせていることを申し訳なく感じてしまった。


「しかも、ちょっとしか会えへんし」


「ううん。ケンジを待ってる間、いつも勉強してんねん。そしたら、最近成績が上がってきてんよ」


「え? そうなん?」


「うん。特に英語なんて、この前、校内の実力模試で1位やってん」


「おお。すげーやん」


「元々英語は好きやってんけどね。めっちゃ単純やねんけど、このまま英語の成績が良ければ、将来、語学力を活かせる職業に就きたい――なんて、なんとなく考えてるねん」


「そっか。 頑張れよ」


「うん。1つ目標ができた。 ケンジのおかげかな。『失敗も挫折も全部その先にある良い事に繋がってる』って意味、なんとなくわかった気がする」


俯いてそう話す彼女の顔はオレには見えなかったけど、その声は弾んでいた。

オレが誰かのために何かをしてやれるなんて、そんなおこがましいこと思っちゃいないけど、ほんの少しでも役に立てたなら良かったなって、素直にそう思えた。


雨がサユリの赤い傘にリズミカルな音を奏でる。

いつもより近いその距離に、オレは幸せを噛み締めて歩いていた。
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