キミだけのヒーロー
振り返るとエッちゃんが、怖い顔して立っていた。

にしても、教科書の角で頭を叩くのはどうなのよ?


「エッちゃん、角はあかんて、角は」


オレは頭をさすりながらエッちゃんに訴える。

教室のあちこちからクスクスと笑う声が聞こえる。


「今のとこ、何か質問ある?」


エッちゃんは片方の眉をあげて、わざと意地悪そうな顔を作ってオレに尋ねる。

ずっと外を見ていたオレに授業内容に関する質問なんてあるはずもない。


「ん――」


それでもオレは一応考えるふりをする。


「“生霊”ってホントにいるんすか?」


適当な思いつきで言ったオレの的外れな質問に、またクラス中が笑いに包まれた。


「さぁねー。それはわたしの専門じゃないから」


エッちゃんも呆れ顔だ。

オレの質問は無視され、授業が再開された。


窓の外では相変わらずちぃちゃんが頑張っていた。

空には大きな入道雲が浮かんでいて、青と白のコントラストに目がくらみそうだった。

グラウンドの隅がゆらゆらと揺れて見える。


ああ……。

夏だ。

夏がやってきたんだと、ふいにそう思った。


日下部健二 高2の夏。

今年の夏は、何か起こりそうな予感――。


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