キミだけのヒーロー
「お兄ちゃ―――ん!」


へ?

お兄ちゃん?


オレとサユリの唇が触れるまであと数ミリってとこで、勢い良くドアが開けられる音と、オレを呼ぶマキの声が背後で聞こえた。

いきなりの訪問者に飛び上がるほど驚き、オレとサユリは慌てて体を離した。


だあああああああ。

もぉ!

なんでこのタイミングでやってくるかなぁ。

見た?

今の見られた?


まるで現場を押さえられた犯罪者のような気分で、マキの顔をそっと盗み見る。


「ママが持ってけってぇ」


いつもと変わらない無邪気な笑顔のまま、お菓子とジュースの乗ったトレーをテーブルに置くマキ。

そして、何事もなかったかのように部屋を出て行く。


良かった……。

まだ小3だもんな。

オレ達が今どういう状況だったかなんて、子供のマキに理解できるはずもない。


マキはパタンとドアを閉めた―――と、その瞬間。


「ママー! お兄ちゃん! チューしてたー!」


「うわああああああ!」


オレは慌ててバタバタと四つんばいのまま這って行って、ドアを開けた。


「してへん! してへんで―――!」


ほんまやって!

寸止めっす!

オレは誰に言い訳するでもなく、ドアの外の廊下に向かって叫んでいた。

背後ではサユリがクスクス笑ってる。




日下部健二16歳。

サユリとのキスは当分お預けみたい。

くそぉ……。



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