キミだけのヒーロー
「ケンジ? どうかしたん? しんどいの? めっちゃ顔色悪いけど……」


そう言って、心配そうにオレを見上げるサユリ。


なぁ……それも演技なの?


サユリを信じたい気持ちはある。

だけど、こんな時に限って思い出すんだ。


――『女なんか自分をよく見せるためやったら、いくらでも化けるで?』


前にサトシが言っていた言葉だ。

これってそういうこと?


もう、わけわからへん。


「ケンジ……? 怒ってるん?」


サユリはオレのシャツの裾を掴んだ。

オレ達はどちらともなく足を止めた。


街路樹の蝉の声、車道を走る車の音、すれ違う人の笑い声……

それら全てがオレの神経に触る。

ガンガンと頭を揺さぶるんだ。

いつもは心地良いサユリのハスキーな声さえも……。





「ごめん……今日は帰るわ」

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