キミだけのヒーロー
夢と現
その夜、オレはヘンな夢を見た。


3年前のあの日、

N中との試合に負けて水飲み場にいるオレ。

タオルをもらったオレの目に映ったのは、去っていく北野典子の後姿。


このままじゃダメだ。

咄嗟にそう思ったオレは、全力疾走で彼女を追いかける。


どれぐらい走っただろう。

やっと追いついたオレは彼女の肩に手をかけた。

彼女は立ち止まり、そしてゆっくりと振り返った。


だけど、オレにはその顔が見えない。

いや、顔は見えているが、中身のパーツがどこにも見当たらないのだ。

眉、目、鼻、本来あるべきものが彼女の顔にはない。

唯一、唇を除いては……。


北野典子の唇は怪しいほどに真っ赤だった。

その唇がゆっくりと動いた。

口角をほんの少し上げて、最初は笑っているんだと思った。


いや、違う。

他のパーツがないため、その表情はまるで読み取れないのだけど、彼女はむしろ悲しんでいる。

その口元は、無理に笑顔を作っている、

そんな感じだった。
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